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《ヒモノ図書館員の恋愛強化書》恋の駆け引きの鍵とは?『ナタリー』

  • 2016年02月05日  猫元 わかば  



    最愛の人を亡くした悲しみは計り知れません。何も手につかなくなったり、今回の小説の主人公のように仕事に没頭してみたり…。悲しみに飲まれた彼女を救ったのは、飾り気のない素朴な男性の恋心と<デリカシー>でした。
     
     
    今回はダヴィド・フェンキノスの『ナタリー』をご紹介します。
    作者は2016年1月より公開がはじまったフランス映画『愛しき人生のつくりかた』の原作・共同脚本を手がけています。
    この映画の原作をご紹介できればよかったのですが、邦訳はまだ発売されていないようで…。
    『ナタリー』自体もすでに映画化されており、私の大好きな作品です。
    こちらは日本でも発売されているので「この機会に!」と選んでみました。
     
    このコラムを書いている時点で、私はまだ『愛しき人生のつくりかた』を見に行っていないのですが、映画にも小説『ナタリー』に登場する主人公ナタリーや祖母マドレーヌと同じ名前の女性が登場するようです。
    もしかしたら関係あるのかも?いまからワクワクしています。
     
     
    ■『ナタリー』あらすじ
     
    最愛の夫・フランソワを事故で亡くしたナタリー。
    夫の死を思い出さないよう昼も夜もなく仕事に打ち込んでいました。
    そんなある日、ナタリーは同僚の1人であるマルキュスに突然キスをしてしまいます。
    困惑したマルキュスに「どうして僕にキスしたんですか?」と尋ねられても「分からない」としか答えられません。
    考えてみても、どうして自分がキスをしたのか、本当に分からなかったのです。
    マルキュスはナタリーとのキスが頭から離れず、彼女を夕食に誘います。
    彼にした行為を考えれば断ることもできず、ナタリーは誘いを受けることに。
    あまり乗り気ではない夕食でしたがナタリーはマルキュスの、マルキュスはナタリーの意外な一面を知り、この夜をきっかけに2人の距離は縮まっていきます。
     
     
    ■恋のカケヒキはメニュー選びから始まる!?
     
    ナタリーは作中で3人の男性から想いを寄せられています。
    1人は、事故で他界した夫・フランソワ。2人目は会社の社長。3人目はさえない同僚です。
    夫・フランソワとの出会いは街の往来。いってしまえば「ナンパ」です。
    直感的に何かを感じ、初めて声をかけた見知らぬ女性がナタリーでした。
    一緒に入ったカフェで、フランソワは「彼女が何を頼むかでふたりの将来が決まる」と考えます。
    私は頭に「?」を浮かべながら読んでいたのですが、彼は独自の理論を展開。
    デカフェ→フレンドリーさがなさすぎ 
    紅茶→所帯じみすぎ。義理の家っぽい 
    アルコール→昼からお酒を飲むは女はこわい 
    コカ・コーラ、ソーダ類→女性的じゃない
    とメニューを次々と却下。デカフェにいたっては「彼女が頼んだら席を立って出て行こう」とまで言い切っています。(そっちがナンパしたのに!)
     
    じゃあ何がいいのかと考えた結果、フランソワが導き出した最適解は「ジュース」。
    それもありきたりなリンゴやオレンジではなく、エキセントリックすぎるグワバでもなく、女の子らしさと変化球を兼ね備えたアプリコット・ジュースが好いとのこと。
    おいおい何言ってんだこの男は…と呆れながらページをめくってビックリ。
    ナタリーはその「アプリコット・ジュース」を頼みます。
    実はナタリーもフランソワとまったく同じことを考えていたわけです。
     
    みなさんはいかがでしょうか。
    注文するとき、自分が頼むメニューが相手に与える印象について考えていますか?
    まあ、たしかに初デートとか意中の相手と2人きりの食事だったら気を使いたくもなりますが。
    でも私だったらガマンできずにあん肝ポン酢と日本酒とか頼んじゃうかも。
    あらがえない食欲>女子力。そういうのがダメなんですね、きっと。
     
     
    ■不器用な男性に女子は胸キュン!
     
    『ナタリー』はとにかく男性側の恋愛心理の描写がすばらしいです。
    想いを寄せる女性の言動に一喜一憂する様や、不器用さが可愛らしくて読みながらニヤニヤしてしまいました。
    もちろん「さすがフランス男!」と思えるスマートさや詩的な部分もたくさんあります。
     
    面白かったのが、ナタリーの勤める会社の社長・シャルルがナタリーに言い寄るシーン。
    彼はナタリーに「僕のこと好きじゃないんだね?」と聞きます。
    返ってきたのは衝撃的なセリフ。
    「でもあなたは結婚してるじゃないの…」
    このセリフを聞いて、シャルルは自分が結婚していることを思い出すのです。
     
    そして傷ついた心に寄り添い、見事ナタリーの笑顔を取り戻すことに成功した男性・マルキュス。
    彼がまた可愛らしくて、いじらしい。
    ナタリーとの夕食に着ていく服を選ぶときも「一張羅じゃたりない。百十二張羅だ」と意気込んだり。
    ナタリーのことが好き過ぎて苦しくて距離を置きたいと思うようになるなんて、まるで恋する乙女のようじゃないですか!
     
    お世辞にもイケメンと呼べるタイプではなく…というか「どちらかというとブサイク」と書かれているのでお察しください。
    女性慣れしていない彼ですが、さりげない気配りが上手で、読書家なこともあり意外と詩的。ユーモアのセンスもある。
    非イケメンを補ってあまりある魅力の持ち主です。
    女性との関わりに不慣れな、不器用な感じはナタリーもツボだったようです。
    やっぱり「かわいいな」って思っちゃいますよね。うんうん。この感性は国境も越えます。
     
     
    ■失意の女性の再生を描いた胸キュンストーリー!
     
    夫を失った悲しみから逃れられなかったナタリー。
    彼女が少しずつ笑顔を取り戻していく姿や恋愛心理の描写が美しく、王道ストーリーではありますがページをめくる手が止まりませんでした。
     
    ちなみに『ナタリー』の原題は『デリカシー』らしいです。
    デリカシーのなかったシャルルは見事に振られてしまいます。
    恋愛に必要なのは顔でも地位でもお金でもなく最終的には相手を思いやる心だと作者は言いたかったのかもしれません。
     
    愛の国フランスでベストセラーになっただけある、とても素敵なお話です。
    また翻訳もすばらしい!詩を読んでいるようなロマンチックな文体はフランス文学にぴったりなのです。ぜひぜひ読んでみてくださいね。