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《ヒモノ図書館員の恋愛強化書》文豪の恋愛をチラ見!『愛の顛末』

  • 2016年01月22日  猫元 わかば  



    小説や映画で描かれるドラマチックな恋愛ストーリー。あなたのお気に入りの作品も、実体験が元になっているのかもしれません。今回は文学作家が体験していた恋愛や結婚を追いかけたノンフィクションをご紹介します。
     
     
    「現実は小説よりも奇なり」なんて言葉がありますが、自分の体験をもとにお話を書く作家さんもいることからその信ぴょう性はうかがえます。
    そう、そうなのです。
    素敵なあの恋愛小説も、応援したくなる健気でしなやかな主人公の女性も、「酷い男!」と思いつつも惹かれずにはいられないあの男性も、あなたのお気に入りの小説には元となった出来事や実在の人物がいるかもしれないです。
    というわけで、今回は小説(フィクション)にも負けないドラマチックな恋愛模様が楽しめる、ノンフィクションをご紹介したいと思います。
    その名も『愛の顛末 純愛とスキャンダルの文学史』。
    テーマを「作家の恋愛と結婚」に絞った、文学や作家についての見方がちょっと変わるかもしれない1冊です。
     
     
    ■『愛の顛末 純愛とスキャンダルの文学史』あらすじ
     
    日本の文学界に名を連ねる作家のスキャンダルを追いかけたノンフィクション。
    小林多喜二、三浦綾子、中島敦…1度は読んだことのある、または目にしたことのある作家たちの名前がずらりと並んでいます。
    本著は彼ら/彼女らの、特に恋愛や結婚、その顛末、死の様相に注目して書かれたものです。
    美点や欠点、可愛いところ、困ったところ、崇高なところ、ずるいところなどなど。
    恋愛・結婚を通して人間味あふれる作家の本当の姿を見ることができます。
     
     
    ■彼女のためと思った行動が裏目に? 小林多喜二
     
    『蟹工船』でおなじみの小林多喜二。
    若くして死んだ彼には、「永遠の恋人」と呼ばれる存在の女性がいたそうです。
     
    女性の名前は田口タキさん。
    多喜二からとても愛され、また彼女自身も多喜二を憎からず思っていたようですが、自分の生まれや多喜二の立場をかんがみて、身を引いた女性なのだとか。
     
    親の借金のために売られた店で働くタキ(当時16歳)に、多喜二はひとめぼれ。
    自由な体になろうと、一生懸命働く彼女の姿に胸を打たれたらしいのです。
    「この愛で完全に瀧(タキ)ちゃんを救ってみせる」なんて借金を代わりに返そうとする手紙をしたためるほど。
    そして実際に、多喜二はお金を集めてタキを「身請け」しちゃうのでした。
    小林多喜二は有言実行の男だったわけです。
     
    その後なんやかんやありつつ同棲スタート。
    やったね!多喜二くん!
    …と思いきや、治安維持法で警察に検挙され、今度は多喜二の獄中生活が始まります。
    その試練を乗り越えてプロポーズするも、多喜二はふられてしまうのです。
     
    タキは多喜二にとって、自分の存在が重荷になると感じていたようです。
    貧しい生まれの彼女。家族はいまだに苦しい生活を送っています。
    一方で小説家という仕事につく多喜二やバイオリンを習っている多喜二の弟。多喜二の友人たち。
    いろいろ積もり積もって、どこか遠い世界の住人のように感じてしまったのかもしれません。
    自分は手に職つけるため、家族のため、借金のためにせっせと働いている。
    その傍らでカレシの弟がバイオリンを弾いたり、友人たちが「プロレタリアとは云々かんぬん」なんて話をしていたら「住む世界が違うな」と思ってしまうのも無理はありません。
     
    タキさんは2009年に息を引き取りました。
    当時「小林多喜二の恋人死去」というタイトルの記事が新聞にのったといいますから、知る人ぞ知る、けれど伝説的な有名人だったようです。
    若くして亡くなった小林多喜二とは違い、102歳まで生きていた彼女。
    なんだか言いようもない切なさを感じてしまいます。
    そして多喜二との思い出について執筆はおろか取材も断り、ずっと自分の胸に秘めていたそうです。
     
     
    ■好きだけど告白はしない!※ただし川には飛び込む 梶井基次郎
     
    小説『檸檬』で有名な梶井基次郎。
    彼はとある女性をめぐって「決闘」を申し込んだことがあるそうです。
     
    お相手は、宇野千代さん。
    「イケメン大好き!」を公言する彼女(潔くていっそ好印象だわ)に、基次郎はホレてしまいます。
    しかし出会った当時、すでに彼女は尾崎士郎という作家の妻でした。
    そのうえ、どちらかというと「いかつい容貌」な基次郎は千代のイケメンセンサーに引っ掛かることもなかったのです。
     
    結核だった彼は自分で恋人を作ろうとか、結婚しようとはしなかったそうで。
    かわりに新婚家庭に遊びに行って、幸せそうな姿を見るのが好きだったようです。
    なんだか切ないですね。迷惑だろうけど。
     
    そんな穏やかではかなげな一面もあったそうですが、先の「決闘」をはじめ、数々の「奇行」があったのも確か。
    千代さんに自分の存在を刻み付けたかったのか、彼女の目の前で流れの激しい川に飛び込んでみたり、心配してほしくて山に入ったまま何日も連絡が途絶えたり。
    そんな“こじらせた”行動には移っても、基次郎は決して自分の想いを言葉にはしませんでした。
    彼にとって「結核」は重い足かせだったんですね。
     
    うーん、でも「好きって絶対に言わないけどいろいろアプローチしてくる」ってちょっと面倒くさいなあ…。
    と私は思ってしまうのですが、千代さんは邪見にするでもなく、何だかんだと付き合ってあげていたみたいです。
     
    しかし、決闘相手の尾崎さんも、意中の相手・千代さんも文筆家だったので、「決闘」や「奇行」をネタにされ、いくつもの本に書かれてしまっています。
    これってもしかして黒歴史なんじゃないかな。ちょっと同情しちゃいますね。
     
     
    ■リアルにドラマチックな恋愛話がたくさん!
     
    この本を元に何本も小説が書けそうな、恋愛ネタが満載です。
    私は「作家と作品は切り離して考えるよ」派なのですが、著者のあとがきにある「作家と作品の間を行ったり来たりしながら文学を楽しみたい」派の気持ちがちょっと分かった気がしました。
    ノンフィクションといいながら、まるで小説でも読んでいるかのようなドラマチックな恋愛話が盛りだくさんです。
    この本を読んでからその作家の本を読んでみると、ニヤリとできるシーンがあるかもしれませんよ。
    堅苦しいイメージの文学作家たちを、「彼らも同じ人間なんだなあ」と身近に感じられる1冊でした。