TOP > イククルコラム > 《ヒモノ図書館員の恋愛強化書》書店員も泣いた!?小説『ランドリー』

《ヒモノ図書館員の恋愛強化書》書店員も泣いた!?小説『ランドリー』

  • 2016年04月22日  猫元 わかば  



    恋愛小説もコミカルなものからディープなものまでさまざま。そんな数ある本の中から、書店員さんが「これは泣ける!」と太鼓判を押した小説をご存知ですか?今回はピュアすぎて切ない!?ラブストーリーをご紹介します。
     
     
    本屋さんやネットショップなどで「○○な小説ランキング」「○○大賞」など目にしたことがあるはず。
    書店員さんだったり実際の売上だったり、いろいろな視点から集められた本は自分では手を伸ばさない種類の本を知る手掛かりにもなるので大変興味深いものです。
    今回はとあるランキングで堂々の1位を獲得した、森淳一さんの小説『ランドリー』をご紹介したいと思います。
     
    そのランキングというのは「書店員が選んだもう一度読みたい文庫」の<泣ける小説部門>。
    「書店員が選んだもう一度読みたい文庫」はTSUTAYAで働く書店員さんたちが本気でオススメしたい文庫を厳選して復刊してしまおう!というプロジェクトです。
    膨大な量の本と毎日ふれあっている目の肥えた書店員さんイチオシの文庫というだけあって、いろいろな本が大集結。
    そんな書店員さんたちが注目した小説『ランドリー』は胸がきゅっとなる純粋でピュアなラブストーリーでした。
     
     
    ■『ランドリー』あらすじ
     
    子どものころ頭にケガを負ったせいで記憶力などに障害が残ったテル。
    うまく周囲となじめない彼の仕事は、祖母のコインランドリーで下着泥棒が出ないように見張っておくことです。
    ある日、見慣れぬ女性がコインランドリーを訪れ、洗濯物を忘れていきました。
    慌てて追いかけて忘れ物を届けても、女性は「ありがとう」すら言わず、つまらなそうな顔をするばかり。
    テルはそんな彼女の顔が何となく頭から離れません。
    また別の日、その女性――水絵が大きな旅行カバンを手にコインランドリーへやってきました。
    田舎に帰るという水絵を見送り、コインランドリーへ戻ると、乾燥器のなかには残された洋服が。
    1枚のワンピースを届けるため、テルはたった1人で水絵の故郷を目指します。
     
     
    ■ピュアすぎる天然ワンコ系男子に胸キュン!
     
    ケガのせいもあり、テルは子供っぽい言動が目立ちます。
    年齢は20歳ということですが印象だけだと10代でも通りそうな感じ。
    それがまたテルの個性でもあり、魅力でもあり…。
     
    もちろん訝しげな視線を向ける人もいますが、コインランドリーの常連さんをはじめ、初めて会う人にもテルの不思議な空気感を気に入り、手を差し伸べてくれる人もいる。
    本作のヒロイン、水絵もその1人でした。
     
    そして気に入った人には懐く、とっても犬っぽい1面も。
    ある事がきっかけでテルと水絵は一緒に暮らしはじめるのですが、帰りが遅くなった水絵の姿を見るなり「お帰り!お帰り!」と駆け寄ってとび跳ねる姿は子犬のようで愛らしい!
    水絵が癒されるのもわかります。
     
    物語はテルの一人称で進むので、私たちはテルが何を思ってセリフを口にしたのかその過程を知ることができます。
    ですが、話し相手からすればテルの思考までは読み取れません。
    どこかテンポのずれた物言いが<癒し>になったり、移し鏡のようになったり…。
    彼らには子どもっぽい割に意表をつく物言いをする、ちょっと不思議な男子に見えるのかも。
    そしてテルと出会い、彼の純粋さを目の当たりにして自分も変わりたいと思うようになる。
    何気に影響力の強い存在なのです。
     
     
    ■テルの想いは恋愛?それとも…?
     
    水絵の忘れ物を、わざわざヒッチハイクしてまで届けに行くテル。
    その理由は単純に「お客さんが忘れたから」。
    水絵に一目ぼれしたとか、あの出会いが忘れられないとか、そういう色恋による動機ではないのです。
    車に乗せてくれたサリーという男性から「客だからってヒッチハイクまでして届けに行くか?行かないだろ」「ほれてるのか」と問いかけられても、テルは意味が分からず首をかしげます。
    テルの中には「忘れ物を届けなくちゃ!」という思いしか存在していません。
     
    もしかしたら心の深い部分では水絵に恋をしていて、テルが恋していると気づいていない、あるいは「恋」というものを理解できていないのかもしれません。
    でもわざわざ田舎までワンピース1枚を届けに来たテルを水絵が素直に「うれしい」と受け入れられたのは、この純粋さが本物だと感じられたからこそではないかなあと。
     
    一目ぼれして追いかけるのも、それはそれで恋心としては純粋ではありますが…まあ、身も蓋もない言い方をしてしまえば下心ですからね。
    会いたいからとか自分の願望を理由にするのではなく相手のことだけを想って動く。
    「そういうのを愛っていうんだよ」というサリーのセリフが正解なのかな。
     
     
    ■ピュアすぎて逆に切ない!ラブストーリー
     
    テルと水絵の間には男と女のカケヒキなんて存在しません。
    思ったことを素直に言葉にして、知りたいことは何でも聞いて分からないことは分からないという。
    お互いの心を読みあって、じりじり一進一退の攻防を繰り返すオトナな恋もいいけれど、こういうまっさらな恋愛も同じぐらい憧れてしまいます。
     
    最後までテルが「水絵を好き」とハッキリ言葉にするシーンはありません。
    それでもテルが水絵との出会いを大切に思っていることや、幼い想いながらも恋愛としての「好き」という気持ちを抱いていることは伝わってきます。
    この先がいろいろ大変だろうけれど、2人にはこれからもずっと一緒に居てほしいなあ。
     
    ハッピーエンドなのにどこかに切なさがつきまとう、素敵なお話でした。
    登場人物のキャラクター設定のおかげで、苦みのある大人向けのピュアストーリーになっています。この塩梅はすばらしい!さすが書店員さんイチオシ!
    見かけた際はぜひ手に取ってみてくださいね。