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《ヒモノ図書館員の恋愛強化書》未来人に恋!?『九月の恋と出会うまで』

  • 2016年05月20日  猫元 わかば  



    絶対に結ばれない人を好きになってしまった。そんな経験は意外と珍しくないかもしれません。しかし<未来人に恋をした>経験のある人は少ないはず。今回はひょんなことから出会った未来人に恋をしてしまうお話です。
     
     
    今回は本屋さんで見つけた気になる小説、松尾由美さんの『九月の恋と出会うまで』をご紹介したいと思います。
    以前ご紹介した『ランドリー』同様、こちらもTUTAYAの書店員さんが選んだ<もう一度読みたい文庫>で見事に第1位を獲得した小説です。
    本著はその中でも<もう一度読みたい恋愛文庫>で1位に輝きました。
     
    2007年に単行本として発売された本小説ですが、TUTAYAのランキングにあわせて文庫化されることに。
    すでに本屋さんで見かけた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
    内容は『時をかける少女』などでおなじみの、いわゆるタイムリープもの。
    相容れない時間軸や世界に生きる相手と出会い恋をするも、決して結ばれることのない…その切なさが醍醐味でもあります。
    『九月の恋と出会うまで』もSFとミステリー要素が加わった恋愛小説。
    1度に3つの味を楽しめちゃう、ちょっとお得な小説です。
     
     
    ■『九月の恋と出会うまで』あらすじ
     
    カメラが趣味の志織は、フィルムの現像のことで隣人ともめてしまいアパートを引っ越すことにしました。
    新居は『アビタシオン・ゴトー』。芸術を趣味にしている人のみが住める、ちょっと変わったアパートです。
    ある日、脚立にのり現像したネガを干しているとエアコンのホース穴から男性の声が語り掛けてきました。
    声の持ち主は同じアパートに住む平野さん。
    しかも2005年の――きっかり1年後の世界に生きている平野だといいます。
    2005年の人間だと信じてもらうために、翌日から1週間分の新聞の見出しをピタリと言い当てた平野を、しぶしぶながら志織は信用することに。
    すると彼は平野――2004年にいる<過去の自分>を尾行してほしいと依頼してきます。
     
     
    ■奇妙な未来人に恋をした!
     
    志織は毎週水曜日になると、平野の尾行をした結果を報告するため脚立に上り、エアコンの穴を通じて2005年の平野(作中で差別化するために「シラノ」と呼ばれている)とおしゃべりをします。
    2005年の人間ということは信じるけれど、過去の自分の尾行を頼む理由をいっさい話してくれないシラノに対し、不信感と不安を拭い去れない志織。
    でも、実はシラノと話せることを楽しみしていたと分かるエピソードがあります。
    あることがきっかけで志織はシラノとしゃべることができなくなるんです。
    そのきっかけというのは、2004年の平野(以下ただの平野)が、自分の部屋にエアコンを取り付けてしまったこと。
    平野がエアコンの穴をふさいでしまったら、シラノが2005年からしゃべりかけて来られない!と志織はパニック。
    ろくに話をしたこともない平野へ「どうしてエアコンをつけたのか」と詰め寄るほど。
    シラノと話せなくなったことも「悲しい」と認めています。
    あまり友達が多くなく、男性との出会いもない志織にとってシラノという存在はすっかり自分の中にしっかり根付いていたようです。
     
     
    ■ライバルは…未来の自分!?
     
    シラノと連絡が取れなくなった志織は、平野にシラノ――未来の平野から頼まれ尾行していたことなどを打ち明けることにしました。
    そして平野と「シラノとは何者なのか」「本当に2005年の平野なのか」の答えを導き出すため、日常的に連絡を取り合う仲になります。
    志織と同様、友人が少なく異性との関わりも薄かった平野は志織のことを好きになってしまいます。しかたないね。
    ところが志織は、本当に2005年の平野の未来人であるかすら謎である、正体不明の「シラノ」という男性が気になっている。
    別の人間ならば、たとえそれが未来人であっても、まだ勝負のしようがあるかもしれません。
    しかし本当にシラノが未来の自分であったら? 
    自分かもしれない男に好きな女性が想いを寄せている…。
    平野としては複雑すぎる展開です。
     
     
    ■やっぱり告白はストレートがイチバン!
     
    作中でイチ推しのシーンは、断られると分かりつつ平野が志織に告白するシーン。
    2004年の平野は、志織から見るとイケメンだけれどへどもどしていて、姿勢も悪く、アニメのフィギュアを飾るようなオタクで、愛想がない。社会生活を送れているのか?と首をかしげたくなる男性でした。
    この認識は平野と会話をするようになって改められるのですが…。
    それでも結局「愚痴っぽくて情けなくて、理屈っぽくてときどき強情」という「イケメンだけど異性にモテないなこいつ」という認識なので改善されたとはいえません。
     
    そんな平野が「ぼくは、北村さんが好きだ」とストレートに告白するんです!
    読んでいて、ちょっとドキっとしてしまいました。
     
    イマドキ(?)の「俺…お前のことちょっと好き、かも…」的な、「『ちょっと』!?『かも』って何だよ!!」とツッコミを入れたくなるような告白ではないのがとても良い。
    (いや、これはこれで照れ隠し的な感じでカワイイですけれども)
     
    しかし、まさか平野にこんな男気があったとは…。
    飾り気なんて全くないし、サプライズ的なロマンチックさもないけれどストレートだからこそ胸に来るというか。
    やっぱりストレートに「好きだ」って言われたいです、私は!
     
     
    ■謎が謎を呼ぶ、切ないラブミステリー!
     
    SFとミステリーと恋愛要素がバランスよく混ざりあった小説でした。
    SF過ぎず、ミステリー過ぎず…かといって恋愛過ぎず。
    普通の恋愛小説とはちょっと違う、<松尾由美ワールド>が楽しめます。
     
    TSUTAYAの書店員さんが「ぜひ読んでもらいたい!」とおすすめの1冊。
    シラノはなぜ志織に平野の尾行を頼んだのか?
    ぜひ本を手に取ってその理由を確かめてみてください。