TOP > イククルコラム > 《ヒモノ図書館員の恋愛強化書》植物の生態は女子ソックリ?『植物たち』

《ヒモノ図書館員の恋愛強化書》植物の生態は女子ソックリ?『植物たち』

  • 2016年02月19日  猫元 わかば  



    意外なもの同士が共通点を持つことがあります。たとえば…女性と植物とか。花に女性を例えることはありますが、意外と<コケ>なんかも女性の性質と似通っているかも?今回は女性を植物になぞらえた短編集をご紹介します。
     
     
    今回ご紹介する1冊は、朝倉かすみさんの『植物たち』になります。
    すでに本屋さんや図書館で見かけたかたもいらっしゃるかもしれません。
    植物が描かれた表紙は一見「植物関連の本かな?」と思わされますが、れっきとした短編小説集。
    2015年12月に発売されたぴかぴかの1冊です。
    「にくらしいったらありゃしない」「どうしたの?」など7本のショートストーリーが収録されています。
     
    物語の主人公は、どこにでもいる(かもしれない)けれどちょっと特別な女性たち。
    女性たちはすべて植物をモチーフにキャラクターが練られています。
    タイトル通り、この本は一風変わった<植物誌>なのです。
    今回は7つの物語の中から、特にお気に入りの2作を取り上げたいと思います。
     
     
    ■『植物たち』 あらすじ
     
    71歳・独身・定年を迎えた女性・さち子。
    彼女の家にはいま、血のつながりのない若い男性「山本くん」が住んでいます。
    恋人でも家族でもない同居人のために食事を作って、洗濯をして、お風呂を沸かす。
    一緒のテーブルでごはんを食べる。服を着替える。化粧をする。
    日常に輝きをもたらしてくれた同居人との生活を、さち子はとても気に入っています。
     
    見た目の違う2つの葉っぱがくっついているコウモリラン、気づくと増殖しているホテイアオイ、日陰にいると幸せそうなコケたち、虞美人草とも呼ばれるひなげし…。
    植物の生態をモチーフに、女性たちのちょっと変わった生き方や男女の出会いが描かれています。
     
     
    ■2人で寄り添う姿はまるで<コウモリラン>
     
    『植物たち』のなかで1番最初に読めるのが「にくらしいったらありゃしない」というお話。
    主人公は71歳の女性・さち子。
    恋愛や結婚に興味が持てないまま、独身をつらぬき、定年を迎えました。
    そんな彼女は現在、血のつながりのまったくない20代の男性「山本くん」と同居中。
    山本くんのために楽しそうにカツカレーを作るさち子の姿から物語始まります。
    2人の出会いは6年前。
    たまたま自宅のトイレの鍵がこわれて閉じ込められてしまったさち子が、たまたま下宿先を探してぶらぶら歩いていた山本くんを見つけ、たまたま助けを求めたことから始まります。
    そして山本くんもさち子と同じように、たまたま恋愛に興味がなかった。
    そんな「たまたま」が重なり、さち子は助けてくれたお礼として部屋を貸すことを提案したのです。
     
    さち子が料理をするキッチンからは通りが見え、山本くんはそこを歩いて仕事から帰ってきます。
    夕食の支度をしながら、さち子は山本くんの姿を想像してウキウキです。
    帰宅時間が近づくと姿見の前にいって、洋服や、髪や、肌をチェック。
    とっときの微笑みを練習してみたり、お化粧をなおしてみたり。
     
    肉体関係もないし、明確な恋愛感情もないし、恋人になりたいと思っているわけでもない。でも若い男の子のために家事をしたり自分の外見を整えたり…一緒に暮らすようになってちょっと浮き足立っている。
    そんなさち子が、恋に恋する乙女のようでとっても可愛らしい!
    おばあちゃんになったって、トキメク心は消えないんですね〜。
    いつまで続くか分からない関係ですが、このまま仲良く暮らしてほしいな…。
    年齢が開き過ぎているからこそ成り立つ絶妙な関係がたまらないお話です。
     
     
    ■じじぃと増殖しつづける女子が1つ屋根の下
     
    続いては「どうしたの?」「どうもしない」というタイトルの2つのお話です。
    こちらは1つのお話を、2人の主人公それぞれの視点でつづった形式になっています。
    1人目の主人公は彼氏と別れ、親とケンカして家を飛び出した17歳の少女・アズ。
    2人目は彼女を見つけて「どうしたの?」と声をかけた男性「じじぃ」です。
     
    家を飛び出したものの行く当てがなく、比較的「安全」といわれている公園で寝泊まりをしていたアズ。
    彼女に声をかけたじじぃは、最初アズに「客」だと思われたのですが全くその気はないことを告げ、自宅で食事をふるまいます。
    じじぃの住む家は元画廊だったらしく、1階はギャラリー、2階はアトリエ。現在じじぃは2階で生活しています。
    アズはすっかりギャラリーが気に入り、住み着くように。そしてアズは公園で寝泊まりしている少女を見つけては声をかけ、気づけばギャラリーは家出少女で溢れていました。
     
    少女たちはみんなじじぃのことが好きで(恋愛感情ではなく)、大事に思っている。
    じじぃへの感謝の表し方が、一緒にご飯をたべておしゃべりをする、というのが何とも可愛らしい。
    じじぃは冷蔵庫などの必需品を買ってあげるものの、構いすぎることなく彼女たちの自主性に任せて好きにさせてやる。何とも不思議な関係がつづきます。
     
    最後は悲しくも胸にじんわりとくる終わりを迎えます。
    きっとギャラリーでの生活は彼女たちの糧になっていくんだろうなあ。
    じじぃも楽しい時間を過ごせて幸せだったと私は思います。
     
     
    ■いろいろな女子の恋模様図鑑!?
     
    7本の小説から「恋愛ではないけれど、不思議な愛情でつながっている男女」という私の大好物なお話を取り上げました。
    他にも「趣味は園芸」や高校生の女子3人の恋物語をまとめた「乙女の花束」もおすすめです。
    前者は30歳を前に自分の生き方を見つめ直し、前に進もうとするアラサー女子の姿が飾り気なく描かれています。
    後者はアーティストに本気で恋しちゃったり、友達と恋の話で盛り上がったりと「思春期あるある!」が満載。読みながらむず痒い懐かしさを覚えました。
     
    非現実的なエピソードでも、どこか身に覚えのある、周りにこういう女の子いたよな〜と登場人物に親近感を覚えるストーリーばかりです。
    ちょっと変わった恋愛や恋愛未満の小説を味わいたい方は楽しめるはず!
    手軽に読めるショートストーリーなので、通勤や通学のお供にいかがでしょうか。