TOP > イククルコラム > 《ヒモノ図書館員の恋愛強化書》理想の家族は作るもの?『憧れの女の子』

《ヒモノ図書館員の恋愛強化書》理想の家族は作るもの?『憧れの女の子』

  • 2016年06月17日  猫元 わかば  



    子どもを持つなら男の子と女の子どちらがよいですか?なかなか悩ましい質問です。今回の小説には「女の子を産む!」と宣言し、産み分けに挑戦する女性が登場します。出産や家族の形について考える機会をくれるお話です。
     
     
    みなさんは、理想の結婚生活や家族像を持っていますか?
    ヒモノな私には縁遠い話ではありますが、結婚(仮にできたと)したら、こんな家に住んでみたいとか、子どもは男女1人ずつがいいかなとか、やっぱり猫は一緒に連れて行きたいとか、いろいろと考えを巡らせることもあります。
     
    今回は、そんな結婚や家族にまつわる小説をご紹介したいと思います。
    朝比奈あすかさんの『憧れの女の子』。
    全5編のお話が収録されている本作は、思わずドキッとするようなストーリーばかり。
    読みながら恋愛や結婚、家族について改めて考える機会を与えてくれます。
     
     
    ■『憧れの女の子』あらすじ
     
    男の子2人を出産した妻から「次は女の子を産むわ」と宣言された俊彦。
    産み分けについての本を読んだり、産み分け外来へ通ったり…。
    「女の子を産むこと」に執着し、躍起になる妻の姿を目の当たりにし、俊彦はだんだんと違和感を覚えるようになります。
     
    生まれてくる子供の性別をめぐった夫婦のすれ違いを描く『憧れの女の子』をはじめ、転勤をきっかけに恋人との関係がこじれはじめる『ある男女をとりまく風景』、弟の婚約者にいいようのない嫉妬心を覚える『弟の婚約者』など家族や恋愛、結婚と絡め、男女のすれ違いを描いた全5編を収録した小説集です。
     
     
    ■<産み分け>は親のわがまま?
     
    自分が望んだ性別の子どもを産めるようにする<産み分け>。
    きっとこの記事を読んでくれている方の中にも「女の子と一緒にショッピングするのが夢なの!」とか「ヤンチャで甘えん坊な男の子ってかわいい!」とか憧れのような、夢をみるような希望を持っている人は少なくないと思います。
     
    しかし『憧れの女の子』に登場する敦子はもっと積極的。
    「女の子がいい!」と願っている…というより「女の子を産む!!」と<決意>をします。
    すでに2人の男の子に恵まれているのですが、長男はやんちゃでケンカっぱやく手を焼くばかり。
    さらに女の子を欲しがっていた友達が、希望通りに女の子を産んだことも彼女の背中を押したようです。
     
    基礎体温がどうとか、夫婦生活も「ムダ打ちはやめて」なんて言われたりしてすっかり<作業>になってしまう現状に俊彦はちょっとうんざり気味。
    女の子を産むことに固執する妻の姿に、だんだんと「男の子じゃだめなのか?」「生まれてくる子供の性別を親が決めるって、おかしいんじゃないか?」と疑問と不安を抱くようになります。
     
     
    ■妻の執着を奇妙がっていたのに…!?
     
    最初こそ妻の「女の子を産む」という願望に抵抗を見せていた俊彦ですが、とある女の子との出会いで彼の考えも変化していきます。
    公園へ遊びに行ったとき、先に並んでいた女の子を押しのけて遊具で遊ぶ息子の姿を目にしてしまった俊彦。
    俊彦は息子をしかり、謝ってこいと女の子の元へ向かわせました。
    すると息子は女の子と一緒に俊彦の元へ帰ってきた。
    この時点で意外な展開だったのですが、さらに俊彦を驚かせたのは、女の子が「ゆるしてあげて」とお願いしてきたこと。
     
    同じ子供とは思えないふるまいに、俊彦は感動してしまいます。
    確かに小さい頃の女の子ってマセていて、同い年の男の子と比べると「お姉さん」な雰囲気がありますよね。
    息子の謝罪を受け入れ、俊彦に「ゆるしてあげて」なんて頼んで、帰り際には手までふってくれる。そんな「女の子」の父親になりたいと俊彦が初めて思った瞬間です。
     
    そして待ちに待った3人目の妊娠。
    敦子の願いは届かず、身ごもったのは男の子。
    冷静に自分を見つめ直し「今はうれしいんだ。しあわせ。男の子ってものすごくかわいい」と敦子は心から喜びます。
    ところが今度は俊彦が「女の子の父親になれなかった」ことに落胆してしまうのでした。
     
     
    ■さまざまな<男女のすれ違い>を描いた小説
     
    敦子に不信感を抱いていた俊彦が、気づけば「女の子の父親になる」ことを夢見、その頃には敦子はすっかり母親の顔になってかつての執着を綺麗に捨て去っている。その構図がなんとも皮肉で絶妙でした。
    考えさせられるシーンもとても多い。俊彦の「選ぶっていうことは、つまり、選ばないっていうことじゃないか」という独白はすごく胸に刺さりました。
    生まれてくる子どもだって、男女の出会いと同じで一期一会なわけで。
    だからこそ自分の理想の家族を作ろうと努力する敦子の気持ちも分からないことはないし、産み分けに疑問を抱く気持ちも分かる。悩ましいですね。
     
    『憧れの女の子』は表題になるのも納得の面白さですが、もう1つおすすめしたいのが『ある男女をとりまく風景』です。
    小説ならではのトリックを使用した作品で、後半に出てくるセリフ1つで物語がガラッと変わります。
    弟の婚約者へ気づかずに嫉妬を抱いていた姉の話『弟の婚約者』も、弟のいる女性ならドキッとしてしまうはず!
     
    甘くて優しいドラマチックな恋愛小説もいいけれど、たまにはリアルテイストの小説を読みながら「自分はどんな恋愛や結婚をしたいのか?」を見つめ直すことも大切かも。
    ノンフィクションを手掛けたこともある朝比奈さんだからこそ描けたリアルと小説が微妙なバランスで混じり合った作品。
    ぜひ1度手にとってみてくださいね。