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《ヒモノ図書館員の恋愛強化書》理想の恋人探して10万年『私の恋人』

  • 2015年10月16日  猫元 わかば  



    思い描いた「理想の恋人像」ピッタリな相手を見つけるのは至難の業。妥協したり条件を見直したりする方が手っ取り早いのですが、今回ご紹介する小説の主人公は、理想の恋人を探し続け、ついに出会うことに成功します。
     
     
    今回ご紹介するのは上田岳弘さんの小説『私の恋人』です。
    こちらの小説は第218回三島由紀夫賞を受賞した作品。
    ストレートなタイトルに惹かれて手に取ったのですが、ページをめくって驚きました。
    最初のページから「繰り広げ絶滅の戦争」「物質エネルギー」…などなど、おおよそ恋愛小説からかけ離れた単語がずらずらっと並んでいるではありませんか!
    え?これ恋愛小説じゃないの?なんなの?
    さらにパラパラとめくってみると「純少女」という文学スキーの心ときめく単語があったりして。
    いったいどんな小説なんだ…。私、気になります!
    ということで手に取ってみた次第です。
    「三島由紀夫賞受賞ということは、文学的な作品なんだろうなあ」
    という私の単純明快な予想を裏切ったような裏切らないような…とにかく、一風変わったお話です。
     
     
    ●『私の恋人』あらすじ
     
    30代も半ばになり、仕事も安定し、心にゆとりができた井上由裕は「恋がしたい」と思うようになりました。
    友人たちに女性を紹介してもらったり、合コンをくり返したりするうちに、由裕は1人の女性と出会います。
    名前はキャロライン・ホプキンス。
    彼女はまさに、10万年前、由裕が1人目の「私」だったときに思い描いた理想の恋人どおりの人物だったのです。
     
     
    ●10万年越しの恋!?
     
    まずは「1人目の私」とか「2周目の旅」とか、混乱するワードがひょいひょい飛び交うのに負けじと読み進めるところから始めましょう。
    小説の主人公は「私」なのですが、
    ストーリーテラーは「私」こと「井上由裕」という人間。「井上由裕」は「私」が転生した姿なのです。
     
    1人目の「私」はさかのぼること10万年、洞窟にひっそりと暮らすクロマニヨン人でした。彼はとても頭がよく、2015年…もっとずーっと先の未来までを予測し、壁画として残しました。
    2人目の「私」はハインリヒ・ケプラーという名前のドイツ系ユダヤ人。強制収容所に連行されるなど壮絶な時代に生き、壮絶な最期を迎えました。
    そして3人目。この小説のストーリーテラーを担当する<井上由裕>として日本に生まれます。
    「私」の記憶は受け継がれていて、2人目のケプラーはクロマニヨン人の、3人目の由裕はケプラーとクロマニヨン人がそれぞれに体験したことや考えたことを覚えています。
     
    娯楽がなかった原始人時代。
    1人目の「私」は未来に思いを馳せていました。パソコンやインターネット、人工知能の存在も予見しています。
    そしてついに、理想の恋人像を思い描くようになりました。
    身もフタもない言い方をすれば、ヒマだったんですね。
    どのぐらいヒマかというと、その<理想の恋人>の一生涯を想像してしまうレベル。
    まあ狩猟採集生活だからね…ヒマだよね…妄想ぐらいしかすることないよね…。
     
     
    ●1人目の「私」の理想がトンでもない!
     
    その<理想の恋人>というのが、またクセもの。
    クロマニヨン人的には「数々の試練をその身で乗り越えてみせる」女性がいいらしい。
    由裕は3人目の「私」でありながら、1人目の「私」が想像する恋人像にあきれています。
     
    〜クロマニヨン人(1人目の私)が恋人にしたい条件〜
    @圧倒的な力を持っている
    Aしかもその力を持て余している
    B放浪し続けなければいけない
    Cかわいい
     
    ごめん、ちょっと意味わからない。全体的にあいまいだし。
    クロマニヨン人の性癖がちょっと心配になるレベル。
    4番目は私の予想ですが、まだ見ぬ妄想上の恋人に対して「麗しい」とか「たまらなく可愛い」とクロマニヨン人は表現しているので、間違ってはいないはず。
     
    いや、しかし知人男性から好みのタイプとして上の条件をあげられたら引くよね。
    「放浪し続ける」ってなんだよっていう。何に惹かれてるんだそれ、っていう。
    あ、でも採集場に食料がなくなって「もうここは無理だ。俺と一緒に別の場所へ移ろう」と相談したときに「イヤ。さっさと食べ物探してきて」っていうクロマニヨン人(♀)より「わかったわ。一緒に行きましょう」って言ってくれる腰の軽いクロマニヨン人(♀)の方がいいか…。
    そして幸か不幸か、ついにその理想を満たした女性が登場するのです。
     
     
    ●ロマンチック?というには重すぎる!?
     
    ようやく巡り会えた理想の女性・キャロライン。
    由裕こと「私」は彼女をつなぎとめたくて仕方がありません。
    そりゃそうですよね。10万年前から待ち望んでいた恋人ですから。
    1人目、2人目の「私」がなしえなかった理想の恋人との邂逅ですもの。
     
    しかしクロマニヨン人の理想条件を満たしているだけあって、壮絶な人生を送ってきたキャロライン。一筋縄ではいきません。
    しかも男の影がチラついている。
    それは彼女が路頭に迷っているところに手を差し伸べ、日本に来るきっかけとなった日本人男性です。由裕はその男性に嫉妬心ばりばり。
    キャロラインの口から男性の抱いていた理念が語られるたび「それ1人目の「私」がもう考えてたし。たいしたこと言ってないし」と拗ねたり、自分だってこんなすごい事考えてるよ!とアピールしようとしたり…。
     
    もちろん由裕は「私」の存在や「ずっと想っていたこと」を伝えたい思いに駆られます。
    そんな告白を受けたら「ステキ!」と思うか「やだ…ストーカーきもい…」と思うか2極化しそう。
    私は…うーん…こいつヤバいな、と思って引いちゃうかな(ごめんね由裕)。
    みなさんはいかがでしょうか。
     
    ただ理想を追い求め続ける貪欲さは素直に賞賛したい。
    ほかにも魅力的な女性は現れたでしょうに。
    でも確かに、人生3回分あるなら、1度ぐらい生涯を<理想の恋人を探し続ける旅>に費やしてみるのも面白いかもしれませんね。