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《ヒモノ図書館員の恋愛強化書》男性を虜にする『嫌な女』の正体は?

  • 2015年08月28日  猫元 わかば  



    誰にでも「嫌いなタイプ」とか「嫌なやつ」と思う性格はあるもの。よく「女性は女性に対して厳しい」と言われますが、今回ご紹介する小説には憎みたくても憎み切れない、いろんな意味で本当に「嫌な女」が登場します。
     
     
    今回ご紹介させていただく本は桂望実さんの小説『嫌な女』です。
    この小説を選んだきっかけは、実写映画化が決定したからなのですが、なんと監督をつとめるのは女優の黒木瞳さんなのです!
    この『嫌な女』と出会って、「映画監督をしたい」と思ったそう。
    黒木さんにそこまで言わしめる、初めてメガホンを握ることになる作品は、どんなものだろう?と興味を持ち、選んでみました。
     
     
    ●『嫌な女』あらすじ
     
    新米弁護士・石田徹子(いしだ てつこ)は親戚の小谷夏子(こたに なつこ)から突然呼び出され、ある男から慰謝料を請求されていると相談を受けます。
    関係者から話を聞いているうちに、夏子がさまざまな嘘をつきながら、たくみに男をたらしこみ、マンションを買わせていたことを知る徹子。
    事態はおさまりますが、この件をきっかけに徹子はトラブルがある度に夏子から依頼を受け、振り回されることになります。
     
     
    ●男を手玉にとる「小谷夏子」とは?
     
    夏子は働くこともなく、男性をだましお金やブランド品、マンションなどを貢がせて生活する日々。
    結婚して子供も授かりますが、すぐに家庭をすてて好き放題。自由気ままな暮らしに戻ってしまいます。
     
    とにかく夏子はたくさんの嘘をつきます。
    そして結婚をにおわせ、マンションを買わせたり。
    くたびれて自信のない大学教授を元気づけてほれさせ、結婚してみたり。
    老人の遺産を相続してみたり。
    とんでもない女としか思えないのですが、夏子の周囲にいた人々からの評判は2極。
    「わがままで嫌な女」など否定的なものと、「一緒にいて楽しい」など同情的・肯定的なものです。
     
    もちろん夏子にだまされる男性は後者の意見で、その家族や女性はほとんど前者の意見。
    男性の前ではかわいこぶって、女性の前では本性をむき出しにする、女から嫌われるタイプの「嫌な女」なわけです。
     
    そしてウソの詰めが甘い。
    年齢をごまかしても、子供のころ好きだったアイドルやテレビの話ですぐにボロを出す。
    しかし、そのウカツなところも男性を虜にするポイントらしいから世の中わかりません。
    「ほっておけない」「かわいい」と思うのだそうで…そこまで計算しているなら、夏子はすごい女です。
     
     
    ●男性に「夢を見させる」のが吉?
     
    作中で夏子のことを「男に夢を見させる天才」と呼ぶ女性がいます。
    これほどピッタリ彼女を表現する言葉はないかもしれません。
     
    夏子が決まって持ちかける話題があります。
    それは「100万円あったら何をしたい?」というもの。
    さまざまな答えを受けて、夏子はその男性の夢の一部に入り込みます。
    たとえばマンションを買わされた男性・章男。
    「北海道をバイクで1周するのが夢」と答えると、夏子はその腕を引いて一緒に駅へ向かいます。
    2人でそのまま電車に乗り込んで、行き当たりばったりの旅行がスタート。夏子に「北と南どっち?」と聞かれ「南」と答えた章男は気づけば熱海に。
    2人で温泉に入ったりお土産を買ったりしながら楽しい時間を過ごします。
     
    男性が「海外旅行にいきたい」といえば、いつにする?どこにいく?とその夢を空想して一緒に楽しんだり。
    つかの間ではありますが、現実を忘れさせてくれるわけですよ。
    そりゃね、ひっかかちゃうよ。さびしい人間は。男女問わず。
    100万という金額もうまい。ぶっとび過ぎた金額じゃないから、身近でリアルなところの夢を語れる。
    でも夏子も本当に楽しんでたんじゃないかな。男性のほうがロマンチストですしね。私なら全額貯金と言っちゃいます。
     
     
    ●夏子は金銭が目当てなだけの女なのか?
     
    夏子のことを知れば知るほど、だまされても仕方ないなあ…という気持ちになりました。
    人の弱みにつけこむだけでなく、本当に心から心配したり、一緒にいることを楽しんでいるように見える。
     
    その最たるが夏子に遺産を相続させた後先短いお年寄り。
    唯一の家族である息子はまったく病院に顔を見せず、一方の夏子は足しげく通い、話し相手になってあげます。
    お年寄りが意識をなくしても、亡くなるまでの1週間ずっと話しかけ続けていたそうです。
    そんな夏子を知っている人は、徹子に「遺産目当てで看病したとしても、それでいいじゃないか」と語っています。
    さびしいときに一緒にいてくれたってだけで金を払ってもいい。それだけの価値があると。
    最期に駆け付けただけの家族と、お金が目当てとはいえ親身にずっと寄り添っていた夏子。
    この手の詐欺の常套手段なのかもしれませんが、夏子の優しさに触れたような気がして、読みながら私も複雑な気持ちになってしまいました。
     
     
    ●夏子という女性は最後までミステリアス
     
    読者は夏子という女性像を、彼女と関わった人物が語る内容から構成してくことになります。
    徹子が夏子と会うシーンも何回か出てきますが、その様子は過去としてさらっと語られるだけ。リアルタイムで会話をしているシーンはほとんどありません。
     
    徹子は関係者に、夏子に対して「怒りを感じたこと」「おやっと思ったこと」2つの質問をします。
    そこから浮かび上がるのは、「男女問わず、他人を金づるとしか思っていない冷酷な女性」と「思いやりのある、無邪気で楽しい女性」の2つ。
    何ともアンバランスで、不思議な魅力をもつ夏子。
    私たちは彼女の言動や真意に直接触れられないまま、間接的に彼女の魅力を思い知り、物語の幕はおります。
     
    物語の序盤では20代だった徹子も、気づけば60代。
    どの年代でも周囲の男性を魅了し、徹子はその尻拭いに奔走することになります。
    ひどい言動ばかりなのになぜか憎み切れない。好きにならずにはいられない。
    そしてふいに温かさを見せる夏子は、本当の意味で「嫌な女」だなあと、白旗をあげざるをえないのでした。