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《ヒモノ図書館員の恋愛強化書》病を通じて描く夫婦愛『朝顔の日』

  • 2015年10月09日  猫元 わかば  



    カゼや病気で寝込むと、心細くなるという人も多いはず。体が弱ると不思議と心まで弱くなった気がするものです。今回ご紹介するのは大病を患った妻に寄り添い、一緒に病を乗り越えようとする若い夫婦の絆のお話です。
     
     
    今回ご紹介する本は高橋弘希さんの小説『朝顔の日』になります。
    すっかり日が暮れるのもはやくなって、秋だなあと感じる今日この頃。
    せっかくなら秋の夜長は読書にいそしみたい。
    それもしっとりした雰囲気の小説が読みたい…!と探していたところ、こちらの小説と出会いました。
     
    本作『朝顔の日』は作者の高橋さんにとって2作目となるお話です。
    第153回芥川賞候補にもなったということで、かなり力作の予感。ワクワクしながらページをめくりました。
    時代は昭和初期。舞台となるのは青森の山深い場所にある病院です。
    ゆっくりと流れる時間の中で紡がれる、若々しい夫婦の絆が描かれています。
     
     
    ●『朝顔の日』あらすじ
     
    凛太(りんた)の妻・早季(さき)はTB(結核)菌に感染し、山深くにある病院で闘病しています。
    ある日の病院へ向かう途中、ふと気が向いて、凛太はいつも降りるバス停の2つ前で降りることにしました。
    立ち並ぶ店の中にある1件の民芸屋。妻のためにと目についたお土産を買い、いつもならバスで通り過ぎるだけの道をゆっくり歩きながら、病院で過ごした妻との時間に思いを馳せる凛太。
    彼は妻の容体について主治医から「あまりかんばしくない。別の治療法を受けてみては?」と提案され、妻の治療法について、ある決断をしたばかりでした。
     
     
    ●守ってあげたい系ほわほわ女子の妻・早季
     
    凛太と早季は幼馴染。結婚したての若い夫婦です。
    TB(結核のこと)を患った早季はおっとりしていて、ちょっと不思議系が入っている女の子といった感じ。
    病気のせいもあるかも知れませんが、どこかふわふわほわほわしている印象を受けます。
     
    彼女がね、めちゃくちゃ可愛いんですよ。たとえば凛太が病院の理髪店へ早季をつれていってあげるシーン。
    散髪が終わって店から出てきた早季がたもと(和服のそでの下部分ですね)で額を抑えながら、「少し前髪を切り過ぎてはいませんか?」とたずねるんです。
    言いたいことは「髪切ったよ!このヘアスタイルどう?似合う?」と同じなのに、この違い!
    日本人女性らしい<おしとやかさ>ってこう言うことか〜とハードルの高さを感じました…。
     
    そしてステキだなと思ったのが、筆談による会話。
    途中から早季はのどが荒れてしまい、声を出すことを控えるように言い渡されます。
    周りとのコミュニケーションは絵画帳に文字を書きこむことで行われるように。
    時間とともに増えていく絵画帳には、夫婦の何気ない会話や早季のかいた俳句や川柳などがぎゅっと詰まっています。
     
    病気が治るにしろ、残念な結果に終わるにしろ、夫婦にとっての宝物になるだろうな〜と思っていたら、なんと凛太、絵画帳を病院の焼却炉で「燃やしてきてやろうか」と発言します。
    おいおい凛太よ…。
    ただ『親切心から』とあったので、冊数が増える=邪魔になるという彼なりの気遣いだったのでしょう…。
    うーん、このあたりが男女の違いなのかな〜。
    もちろん早季は拒否します。ちょっと哀しそうに。
    凛太は絵画帳に早季の書いた俳句や川柳が書いてあることを知り、自分の発言を後悔しています。
    でもね、凛太よ。きっと早季は自分の俳句や川柳を惜しんだんじゃないのよ。
    凛太との会話がそこかしこに残っているからだと思うのよ。
    「その絵画帳は夫婦の時間がつまった大切なものだよ!!」とよっぽど言ってやりたくなりました。
     
     
    ●妻のために献身的につくす旦那の鏡・凛太
     
    凛太は終点までバスに揺られなければならない、山奥にある病院へ足しげく通います。
    妻想いの優しい旦那さんです。
     
    そのエピソードの1つが卵焼き。
    病状は回復しつつあっても、衰弱していくように見える早季に欲しいものはあるかと尋ねます。
    そのとき早季があげた1つが卵焼き。凛太の得意料理だそう。
    凛太はその足で病院にある調理場へおもむき、厨房に頼んで材料や調理器具を貸してもらい卵焼きを作ってしまうんです。
    病室に卵焼きを持って現れた凛太に、早季はびっくり。
    「今すぐ卵焼きを食べたい」と言ったものだと勘違いしていた凛太も妻の予想外の反応にびっくり。看護婦さんもびっくり。
     
    もうね、微笑ましいことこの上ないのですよ、このシーン!
    ハタチそこそこの男子が「妻が食べたがっているから卵焼かせてください!」なんて調理場に来たら、そりゃもう喜んで貸しちゃうよ。
    調理場にいる仏頂面の兄ちゃんだって、仏のような顔になっちゃうってもんですよ。
    「がんばれよ、兄ちゃん…!」って応援したくなっちゃいますよ。
     
     
    ●おだやかな時間が流れる純文学小説
     
    病院が舞台。時代は大戦中…ということもあって、多少の薄暗さはつきまといます。
    TB(結核)をわずらいながらも愚痴や弱音を吐かず、生きようとする早季と、そんな彼女を献身的に支える凛太。
    散歩をしたり、病院内のレストランで食事をしたり…。
    2人の時間は「いつもの速さを10とするなら3の速さで歩いてください」という医者の言葉そのもののような、ゆったりとしたものです。
     
    また作中には「愛している」だとか「好き」だとか、直接的な愛情表現はありません。
    逆にそれがいいのかな…お互いがお互いを大切にしていることがひしひしと伝わってきます。初々しい夫婦愛にほっこりするはず。
     
    文学的な文章とあいまって秋口にぴったりの1冊。
    昭和好きさんには特におすすめしたい小説です。
    「まだ読んでいない!」という方はぜひ手に取ってみてくださいね。