TOP > イククルコラム > 【パッカー海未の恋愛放浪記】私は「お客さん」@ベトナム

【パッカー海未の恋愛放浪記】私は「お客さん」@ベトナム

  • 2015年01月20日  空山 海未  



    ベトナムで出会ったお兄ちゃんみたいな彼は、ちょっと疲れた背中でわたしが想像していたよりもいろんなモノを背負っていました。世界にはわたしなんかの想像を軽々と超える、いろんな生き方があるみたいです。

     

    ●もうこりごり。絶対信用しない客引きのバイタクのはずが

    初めてベトナムで利用したバイタク(バイクタクシー)。日本語を話すおじさんにまんまと騙されたおかげで、絶対信用するもんかと決めていたのに、そのお兄ちゃんはずっとわたしの隣に座っていました。フエに着いた朝、夜に出るハノイ行きのバスの時間までどうしようかな、なんて考えながらフエのバスターミナルでぼんやりしていた私の隣に現れたのは、「ドルガバ」のTシャツを来たバイタクのお兄ちゃん。全く利用する気のなかった私は、必死で話しかけてくるそのお兄ちゃんの話も半分くらいしか聞いていませんでした。あまりにしつこいので、相場の半額でいいなら、というと「それでいい」っていうんだもん。自分で言った値段なので、払わないわけにもいかず、ハノイ行きのバスまで、そのバイタクのお兄ちゃんとフエ観光をすることになりました。最初はもちろん、日本で乗るタクシーと同じように、運転手とお客さんだったわたしたちですが、フエを観光しながらお互いの家族のことや仕事のことなど、少しずつ雑談もするようになりました。わたしはラオスに抜けるために、再びフエに戻ることになると言うと、そのバスの予約も手伝ってくれ、帰ってきたらまた一緒に観光しようって言うじゃありませんか。きっと彼にとっては「いいお客さんができた」だけだったのでしょう。でも、最初はぎこちなかった会話も、時間がたつにつれてだんだん、冗談混じりになり、わたしはそのお兄ちゃんを信頼するようになりました。

     

    ●家に遊びにおいで!

    ハノイで数日過ごしたあとフエに戻った私は、バスターミナルでそのお兄ちゃんがずっとかぶっているちょっと擦り切れたキャップの下から、心配そうにバスをのぞきこむその顔を見つけて、嬉しくなりました。本当ならわざわざフエに戻る必要はありませんでした。ただ、どうしてもそのお兄ちゃんにもう一度会いたいと思ってしまった私がいました。もっと彼のことを知りたいと思ってしまった私がいました。でも、そのお兄ちゃんは、私より歳下の奥さんと、生まれたばかりの赤ちゃんがいると言っていました。観光をしながらちょっと照れたように奥さんとの馴れ初めのことや家族のことを話すお兄ちゃんがなんだか、とても素敵な父親の顔をしていたのが心に残っています。赤ちゃん見たいか?見たいか?ってあまりに何度も聞くから、見たい見たい!って答えると、よおし、じゃあ今晩は俺の家で一緒に夜ごはん食べよう。っていうまさかのお誘い。しばらく迷ったあと、でも実際にベトナム人の生活を経験するチャンスだし、奥さんと赤ちゃんも見てみたいし。というわけでお言葉に甘えておじゃますることにしました。「奥さん、ヤキモチ妬いたりしないの〜?」なんて、軽い調子で聞いてみたりしたけど、ヤキモチ妬いてたのは私のほうだったかも。

     

    ●幸せな家庭生活?

    昼間観光したあと一旦宿に戻り、夕方再びわたしを迎えにきたお兄ちゃんは、行きつけだというレストランで野菜のかき揚げのようなものを買いました。わたしはわくわくしていました。お兄ちゃんのバイクの後ろで、どんな家かな、赤ちゃんと奥さんはどんな顔かな、と想像しているうちに「着いたよ」と。目の前にあったのは、車のガレージのようなコンクリートの建物。まさにガレージのようにじゃばらになった柵のようなものを引くと、そこがリビングでした。ダブルベッドくらいの広さの部屋に、奥さんが座ってにこにこしていました。赤ちゃんはその隣で、冷たいコンクリートの床に薄い布をひいた上ですやすやと眠っていました。買ってきたかき揚げが夜ご飯の全てでした。日本の一般的な食事であればおかずのひとつです。その「家」と呼ぶにはあまりにも質素な空間で、いろんな想いがわたしの頭の中をぐるぐるして。ありがとう、楽しかったよ、とぎこちない笑顔で宿まで送ってくれたお兄ちゃんにお礼を言うと、少し間をおいてから、お金、くれる?と聞かれました。私は次の日にラオスに出国する予定だったので、もうベトナムのお金は必要ありませんでした。残ったお金を全て渡しました。嬉しそうにそれを受け取ったお兄ちゃんは、「明日の朝ごはんは俺がごちそうする、一緒に食べに行こう」と言って去っていきました。

     

    ●わたしは「お客さん」?

    次の日の朝、お兄ちゃんはちゃんと宿まで来てくれました。朝ごはんを近くの屋台へ食べに行きました。「ほら、ラオスまでの道のりは長いからな」と言って、水やお菓子も買ってきてくれました。そんなことせずに今日わたしのところへ来なければ、他のお客さんをつかまえることもできたし、昨日私が払ったお金も全部自分や家族のために使えたのにな。と思うと複雑な気持ちになりました。お兄ちゃんは今まで私が旅で出会ってきた「金目当て」の商売人の中で唯一、その人本人の中身を知ることができた人でした。これくらいおごってやるって、チェー(ベトナム風あんみつ)をごちそうしてくれたり、照れながら奥さんのことを話してくれたり、「あたったら家族で日本に遊びに行くな」って、小さい物売りの子供から宝くじを買っていたり。そのちょっとつかれた背中をぎゅっと抱きしめてあげたい気持ちは、今もわたしの心の中に隠したまま。わたしはお客さんでしかなかったかな?勝手にお兄ちゃんのように信頼していたその人が、バスを見送って最後まで手を振ってくれている姿を見ながら、複雑な想いで胸が一杯になりました。さよなら、また来るね。